教育の特色・美術

ひがし幼稚園は造形表現活動に力を入れています。
「造形表現活動」???
絵の具やクレヨンで絵を描いたり、
粘土で何かを作ったりする事と
思ってくださってかまいません。
しかし、やっぱりちょっと違うんですね。
やる事が、やる心が、
さあ、ちょっと不思議なアートワールドへ。
表現活動を通して、子どもも大人も一緒に、
生きるってすばらしいという事を実感しましょう。

普段の活動のほんの一端をご紹介します。

 

フィンガーペインティング
(全学年)

机の上に直に絵の具を出し、手で直に触って絵を描きます。

色のついた泥遊びのようなものであり、最後に紙に転写しますので、簡単な版画のようなものでもあります。絵を描くことは子どもにとって我々大人よりもずっと重要な自己表現ですが、このカリキュラムは日頃服や机を汚しては怒られ、手を汚しては眉をしかめられるという、現代の子ども達にかかる抑圧を気持ちの上で開放してあげるというねらいがあります。まずは気持ちを開放し、柔軟に自己表現できる状況を与えてあげているのです。

今年度入園の園児の中にも未就園児イベントで体験している子もいて、絵の具に触れることに抵抗を示す子は近年ほとんどいなくなりました。あっという間に大騒ぎ。ぬるぬるとした絵の具の感触や、ひんやりした気持ちよさを味わい、そして机に絵を描き、繰り返すことによる色の変化や紙に転写する面白さに驚き、醍醐味を認識。至福の時をすごします。毎年全学年行いますが、学年に合わせ、絵の具の色数や保育における取り組み方を変化させていきます。

子ども達の経験の度合いによってその表現は無限に広がります。机の上の泥遊びに終始し、紙への転写まで興味が行かない子だっていますし、我々教師がびっくりしたり大笑いしたりする事もよくあります。子ども達はこんな楽しみを通し、自身の力を実感しています。

色紙による平面構成(年中)
あらかじめ用意してある様々な色、形の色紙を自分なりに組み合わせて絵を作っていくものです。
材料を用意するのはそれぞれの学年の先生達。色紙の他に英字新聞も加え、あらかじめ形を切って準備します。子ども達の作業は沢山の色紙の中から気に入ったものを選ぶことからはじまりますが、色を中心に選ぶ子、形を中心に選ぶ子それぞれで、選んだ形から何を表現するかを考える場合もあれば、まず表現するものを決めて、色紙選びをする場合もあります。そして選んだ色紙を更に自分で選んだ色の台紙に並べて糊で貼っていくわけです。みんな糊の使い方も大変上手になりました。

絵が平面上の積み木遊びのように、子どもの手によって様々に形を変えていく様子は大変興味深く、子どもの性格や普段の様子が反映されます。この変化は作っていく本人にもちょっとした驚きにつながり、イメージが広がっていきます。さてさてどんなものが出来たでしょうか。作られていく過程を想像しながらご覧下さい。

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コラージュ遊び(年少)
年少版の平面構成です。お弁当箱の絵が描いてある画用紙に、思い思いに見立てたおかずをつめてもらいました。材料は、年中の色紙とほとんど同じですが、包装紙などの柄物や薄紙も加えてみました。年中は形の集合体で、目的の物を表現するのに対し、年少の場合は、ひとつひとつの材料を、お弁当の中身に見立てますので、出来上がりを見ただけでは、それぞれが何を表現しているのかわかりません。しかし製作をしているときは、実際に色々なおかずを想定しとても楽しそうで、ぎっしりとお弁当箱に詰めてくれます。
以前、まだ白く貼るスペースのある子に「まだ貼るところあるよ」と話すと「あんまり食べ過ぎるとおなかが痛くなっちゃうからこれくらいにしとくの」と答えた子がいました。きっとそんな経験があったのでしょう。
お弁当箱への詰め方にも個性が出ています。見れば見るほど味のあるお弁当です。
死んだらどうなる?(年長)
入園案内やホームページなどでも紹介していますので、年長になったら行うことを既に皆様ご存知だと思いますが、はたして我が子だったらどんな表現をするのだろうか想像がつきますでしょうか。このテーマで絵画表現を始めて20年近く経ちますが、その間に時代はずいぶんと変わりました。始めた当初は子どもと〝死〟がもっと無関係に思えていました。

しかし、環境の変化、犯罪の多様化、ゲームやマスメディアなどからの情報の氾濫。こんな時代だからこそ子どもから死を遠ざけようとせずに、あえてじっくり考えしっかり受け止める必要があるように感じています。今、死を真剣に取り上げる事により、これからの〝生〟に深みを持ってほしいのです。
この絵の製作に入る前に必ず子ども達とこのテーマによるディスカッションをします。あくまでもディスカッション。園長が教えるのではなく、子ども達と園長とで話し合うのです。

「死ぬって何だろう?」「死んだらどうなると思う?」
「お墓に入る」「天国に行く」「地獄に行く」「お星さまになる」・・・
子ども達の反応主導で話が進んで行きますので、毎年ディスカッションの内容は違います。世相を反映する場合も多々あります。近年、非常に非現実的な事件が多発したりもしていますので、どのような反応が来るかこちらも心して取り組みますが、子ども達からは明暗様々な話が出てきます。「意識がなくなる」「戻れない」「骨になる」「ぼろぼろになる」「落ちて行く」「べろを抜かれる」「脳みそがなくなる」「やばい」「木の箱に入れられる」「青い球になってね、天に昇るの」等これは今回出た話。過去には「ブスッとされると死ぬ」「テッポウでパーン!」「楽しいところ」「ご飯が食べ放題!」などわりと軽くとらえたり明るいイメージを持っている子もいました。近所でおきた事件や、ニュースの話をしてくれた子もいますし、恐らく家庭内で話したのであろう話も出ました。自分で考えることも大事ですが人の話に耳を傾けそこからた新たな発想へとつなげて行くことも重要です。

そしていよいよ製作。年長児は自分の道具として、絵具・色マジック・クレパス・鉛筆を持っていますがそれをどのよう使ってもかまいません。すぐにとりかかってどんどん描いて行く子もいますが、白い画用紙を見つめたまま長時間考え込んでしまう子もいます。最終的には全員が何らかの表現をします。どんな表現でも全てがOKなのです。製作が終わった後、昼食の時間に再び話をします。楽しいことも辛いことも全て生きているから経験できる。辛いことを頑張って乗り越えるからその先に素晴らしいことが待っている。みんな一生懸命生きているから、自分のことも友達のことも大切であるということを今度は言って聞かせます。

このテーマは、絵画表現における発想の豊かさをふくらますねらいもありますが、本当はリセットの効かない、生きる事の意味や大切さを少しでも解ってほしいという願いがあるのです。今回の経験をきっかけに生きるということの意味を考え、生き抜くことの大切さを今後心に持ち続けてもらいたいと思っております。死後の世界について、何にもない虚無な世界だと思えば手が加わらない真っ白な絵の場合もありますし、死に瀕する暗い絵を描いて、その重さを再認識することも大切なことです。心に重たいものがあれば、絵画表現によって表に放出することも大切なことです。

どうかそのような目で、この年長さん達の表現の幅をご覧頂きたいと思います。